「子ども名義の口座は、相続税の対象になるのでしょうか?」——相続税のご相談で比較的よく聞かれるのが、この家族名義の預金をめぐる質問です。通帳や口座名義が配偶者や子どもであっても、実際には被相続人(亡くなられた方)が資金を出し、管理し、自由に使える状態だった場合、その預金は相続税の検討対象となることがあります。

結論からいうと、名義預金かどうかの判断で重視されるのは、口座の「名義」ではなく、誰の財産といえるかという「実質」です。国税庁も、相続税は現金や預貯金など、金銭に見積もることができる経済的価値のあるもの全般を対象とすると示しています。出典:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」

長年の家計管理の延長で家族名義の口座が増えているご家庭では、悪意がなくても名義預金と見られる余地が生じます。この記事では、名義預金の判断基準・申告方法・税務調査対策を、相続専門税理士の視点から順に解説します。

この記事でわかること
  • 名義預金が相続税で問題になる理由
  • 名義預金かどうかを見極める主な判断材料
  • 申告時に注意したい預貯金の整理のしかた
  • 税務調査で指摘を受けやすい場面と備え方

名義預金とは?「名義」と「実質の持ち主」が異なる預金の仕組み

「名義預金」は法律上の正式な制度名ではありませんが、一般には、口座の名義人と、実際にその預金を形成・支配していた人が異なる状態を指します。たとえば、子名義の口座に親の資金が入金され続け、通帳や印鑑を親が管理していたようなケースです。

相続税では、名義だけでなく、誰の財産といえるかという実質が重視されます。相続財産は、現金、預貯金、有価証券、土地などのほか、金銭的価値のあるもの全般が対象です。出典:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産」

名義預金が相続税で問題になる3つの理由

  • 申告漏れ(相続財産の計上漏れ)につながる…家族名義だからと除外すると、後に修正申告や税務調査の端緒になります。
  • 税務調査で説明を求められやすい…預貯金は税務署が確認しやすい財産で、名義と実質のずれは指摘の典型例です。
  • 生前贈与との区別が曖昧になりやすい…「贈与のつもりで振り込んでいた」が、後から名義預金と整理されると、相続税の課税対象になります。

名義預金の判断基準|「作った目的」より「管理・支配」の事実が重視される

実務上は、次のような事情を総合して判断することが多くなります。

  • 口座開設時や入金原資を誰が用意したか
  • 通帳、届出印、キャッシュカードを誰が保管していたか
  • 口座名義人本人が残高や入出金を把握していたか
  • 贈与として渡したと言える事情があるか
  • 名義人本人が自由に引き出して使えたか

たとえば「教育資金のために子名義で積み立てていた」という説明だけでは足りず、本人に贈与されたこと、本人が財産として認識していたことまで確認できるかがポイントになります。単に家族名義にしていただけでは、相続開始時点で被相続人の財産と整理される余地があります。

家族名義の口座がすべて名義預金になるわけではない

反対に、家族名義の口座だからといって直ちに名義預金になるわけでもありません。贈与の意思があり、受け取る側もその事実を理解し、実際にその口座を管理していたのであれば、贈与済みの財産として扱える可能性があります。

ただし、口頭だけで長年進んでいる贈与は、後から資料で説明しにくくなります。110万円以内の贈与で申告不要だったとしても、相続の場面では「本当に贈与が成立していたか」が問われます。相続開始前の贈与は、一定期間について相続税の課税価格に加算される仕組みもあるため、贈与と名義預金は分けて整理する必要があります。出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

名義預金の申告方法|預貯金の計上漏れを防ぐ整理手順

名義預金の疑いがある口座を把握したら、次の4ステップで整理するのが基本です。

  • 口座の履歴・残高を一覧化する
  • 通帳の保管状況と入出金の原資を確認する
  • 家族(名義人本人)の認識をヒアリングする
  • 被相続人に帰属するとみるのが相当であれば、相続財産として申告に反映する

相続税の申告では、現金・預貯金等の明細を作成していくことになりますが、名義だけで除外すると、後の修正申告や税務調査につながる可能性があります。「遺言があるから大丈夫」「現金で残していたから分からない」という発想は危険です。実際に、自筆証書遺言と名義預金を一体で整理した相談事例や、手元現金と名義預金を税務調査に備えて整えた相談事例があります。

税務調査対策|預金移動の経緯と生活実態の整合が問われる

預金の問題では、残高そのものだけでなく、資金移動の流れが確認されます。定期的な振込、相続直前の大きな移動、家族の収入水準と預金残高の不均衡などは、説明を求められやすい項目です。

また、被相続人が通帳一式をまとめて管理していた、暗証番号を本人しか知らなかった、名義人本人が口座の存在をよく分かっていなかった、といった事情も重要です。税務署側が一つの事情だけで結論を出すわけではありませんが、複数の事情が重なると、名義預金として見られる可能性は高まります。

税理士の視点(佐藤智春)

名義預金は、制度の知識不足よりも、「家庭では自然だった管理」と「税務上の帰属」のずれから起きやすい論点です。相続が起きてから一気に説明しようとすると、通帳が見当たらない、家族の記憶が一致しない、贈与契約書がない、といった問題が重なります。

そのため、相続発生後は、遺産分割より前にまず財産調査を丁寧に行い、家族名義口座を先に棚卸しすることが有効です。疑わしい口座を最初から申告対象候補に入れて検討する姿勢のほうが、結果として安全なことが少なくありません。

まとめ|名義預金は「早めの棚卸し」が最大の対策

名義預金の判断では、口座名義よりも、誰が資金を出し、誰が管理し、誰が自由に使えたのかという実質が大切です。家族名義の預金を安易に除外すると、後から相続財産と判断される可能性があります。相続税申告では、預金の流れと管理状況を丁寧に整理し、必要に応じて申告に反映させることが重要です。

名義預金に関するよくある質問(FAQ)

名義預金とはどういう意味ですか?

口座の名義人と、実際にその預金を形成・支配していた人が異なる状態の預金をいいます。相続税の計算では、名義ではなく実質の持ち主で判断されることがあります。

子ども名義の口座なら相続税は関係ありませんか?

必ずしもそうではありません。名義が子でも、実質的に被相続人の財産とみられる場合は、相続税の対象として検討が必要です。

名義預金は税務調査で見つかりますか?

預貯金の動きや通帳の管理状況、家族の収入水準と残高の不均衡などから、税務調査で確認されることがあります。調査ではなく自主的な申告・修正ができる段階での整理が望ましいです。

毎年少しずつ渡していたお金も名義預金になりますか?

贈与が成立していたかどうかの確認が必要です。渡した側の意思だけでなく、受け取った側の認識や管理状況も重要です。

名義預金が見つかったらもう申告できませんか?

申告自体は可能です。むしろ、把握できた段階で整理して申告方針を決めることが、後のリスク軽減につながります。

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代表税理士 佐藤智春
執筆・監修:佐藤 智春(税理士・みらいえ相続税理士法人 代表社員)
税理士登録番号 108030

相続税を専門に扱う税理士として、複雑な家族関係・分散した財産・期限目前のご相談に、財産調査から申告・納税まで一貫して対応しています。本コラムの事例は、実際に担当した相談を個人が特定されない形で抽象化しています。

本記事は実際のご相談に基づき、個人が特定されないよう情報を抽象化しています。掲載内容は一例であり、税額・節税効果・完了までの期間・対応の可否・制度の適用可否は、財産の構成や資料の状況、その時々の事情により異なります。また、当法人の過去の実績や記録が、将来の成果を保証するものではありません。