- 同居していた家族のお金が相続財産になる場合とならない場合
- 生活費、仕送り、贈与、名義預金の違い
- 税務署に説明できる預金整理の進め方
- 相続税申告のあとに考える高齢期の備え
- 実際に生活費と相続財産の線引きを整理した相談事例
まず結論―「同居していたから相続財産」「生活費だから相続財産ではない」と単純には決められない
同居して生活費を支えてもらっていた場合、そのお金がすべて相続財産になるわけではありません。一方で、「生活費だった」と言えば何でも相続財産から外せるわけでもありません。重要なのは、何のために渡され、どのくらいの頻度で、実際にどう使われていたかを、通帳や生活実態に基づいて確認することです。
本件では、被相続人名義口座の入出金と、同居していたご相談者様の生活費のやりくりを丁寧に聞き取り、生活費相当のお金と、遺産に含めるべき預金とを資料で整理しました。
(1)生活費として非課税になり得るお金とは―「必要な都度・通常必要な範囲・実際に使われたか」
税務上、夫婦・親子・兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものには贈与税はかかりません(国税庁 タックスアンサー No.4405)。
ただし、非課税になるかどうかは、金額や頻度だけで自動的に決まるわけではありません。実質的には、①生活費として「必要な都度」、②「通常必要と認められる範囲」の金額で、③「実際に生活費や教育費に充てられたか」という3つの観点で判定されます。
たとえば、生活費の名目で渡された金銭であっても、次のような場合は贈与税の課税対象となり得ます。
- 必要額を上回る多額の金銭が一括で渡されていた場合
- 生活費として受け取った金銭が、長期間預金口座に積み上がったまま残っていた場合
- 実際には生活費以外の用途(被相続人名義口座への戻し、資産購入、趣味・娯楽等)に充てられていた場合
つまり、「継続的かつ通常の生活費程度だから自動的に安全」というわけではなく、その都度の必要性・金額・実際の使途という実態で問われます。
(2)どこからが相続財産になるのか―被相続人の財産として残るお金
一方で、相続税の実務で問題になるのは、「生活費として日々消えていったお金」と「実質的に被相続人の財産として残っていたお金」を分けることです。
被相続人名義の口座から出金されていても、その金銭が(1)で整理した範囲の生活費として実際に消費されていれば、直ちに相続財産として残るわけではありません。
これに対し、家族名義の口座に移されたお金であっても、実質的に被相続人が管理し、生活費として消費されず蓄積に回っているような場合は、相続財産や名義預金として整理すべき対象になります。
ここで重要なのは、「名義」ではなく「そのお金を誰がどう管理し、どう使っていたか」という実態です。被相続人と同居していたとしても、受け取った金銭が預金として残っていたかどうかは、通帳と生活実態を突き合わせて確認する必要があります。
線引きは「生活費で非課税(1)」と「相続財産に算入(2)」の二段階で整理する
ここまでで見たとおり、本件事案の線引きは次の二層で整理すると見えやすくなります。
- 生活費として非課税になり得るお金
- 被相続人の財産として相続財産の対象になり得る預金
両者は別個の論点で、混同しやすいものの性質が異なります。(1)は贈与税側で問われる「名目で生活費だったか」、(2)は相続税側で問われる「実質として被相続人の財産のまま残っていたか」という違いです。次の節からは、この二層を踏まえた上で、名義預金の判定と整理の進め方を解説します。
名義預金の判定で確認すること
名義預金の判定では、一般に次のような事情を確認します。
- 口座を開設したのは誰か
- 印鑑を管理していたのは誰か
- 通帳を保管していたのは誰か
- 資金の出所は誰か
- 名義人本人がその口座や残高をどう認識していたか
この事例でも、(1)の生活費として受け取った金銭と、(2)の実質的に被相続人の財産とみるべき預金を区別するため、生活実態の聞き取りと通帳記録の照合を積み上げて判断しました。
税務署に説明できる整理のしかた
こうした事案では、「結論」よりも「どう整理したか」が重要です。税務署に説明できる形にするためには、通帳の記録だけでなく、日頃の生活状況、現金のやりくり、医療費や食費の負担状況など、生活実態をあわせて確認する必要があります。
本件では、相続人への丁寧な聞き取りを行い、生前の記憶と通帳記録をすり合わせながら、(1)の生活費相当のお金と、(2)の遺産に含めるべき預金を一つずつ切り分けました。当法人では、相続税申告における書面添付(計算事項等記載書面)の実施率が80%以上です。お客様との打合せで把握した財産内容やお金の動き、使い方など、税務署が確認しやすいポイントをあらかじめ書面に記載し、申告内容の背景を明確にしています。こうした対応により、税務調査の要否判断や事前確認の場面で、調査リスクの低減につながる申告を重視しています。
結論を急がず、資料で裏付ける姿勢が、税務調査リスクの低減につながります。
相続の整理が一段落した後で考える高齢期の備え―本件では将来のご相談につながりました
この事例では、相続税の申告手続きと財産整理が完了した後、ご相談者様の今後の暮らしについて、自然に議論が及びました。本件のご相談者様は独り身のご身内(娘様)で、被相続人(お母様)亡き後は身近な支援者が限られる立場になられました。相続の整理が一段落したタイミングで、ご自身の高齢期の備え―身元保証のあり方や、生活支援・サポート団体とのつながり―をどう整えていくかというテーマにご相談が発展しました。
相続の問題は、過去のお金の整理に終始するとは限りません。税務のご相談が、ご本人のこれからの生活設計を話し合う場面につながることも少なくありません。
実際の相談事例
ご相談者様は被相続人(お母様)と同居し、生活費をお母様に頼っていたことから、「本来の遺産に含めるべき預金の判定を正しく行い、税務署から指摘されないように申告したい」と希望されていました。相続発生前から複数の事務所を比較されたうえで、当法人の財産調査の進め方と税理士としての経験をご説明し、ご依頼をいただきました。
本件では、まず相続人への丁寧な聞き取りを行い、日頃の生活状況、生活費のやりくり、被相続人名義口座との入出金の関係を整理しました。そのうえで、生前の記憶と通帳記録を照合し、(1)の生活費相当のお金(非課税)と、(2)の相続財産(遺産に算入すべき預金)を切り分け、遺産に含めるべき預金を特定。さらに、口座の開設者、印鑑管理者、通帳の保管者、資金の出所を資料で裏付け、名義預金に当たるかどうかまで整理しました。
最終的には、税務署から指摘されないよう意識した申告を行い、その後、相続の整理が一段落したタイミングで、ご自身の高齢期・独り身期間の備えとして、身元保証やサポート団体などに関するご提案まで行いました。
この事例で大切なのは「お金の名目」ではなく「生活の実態」を見ること
「生活費・仕送り・援助」という言葉は日常では曖昧に使われますが、税務の場面では、そのお金が何だったのかを具体的に整理しなければなりません。大切なのは、「生活費と言っていたか」ではなく、「その都度、通常必要な範囲で、実際に生活費に充てられたか(1)」「被相続人の財産として残っていたのではないか(2)」という事実を、通帳と生活実態の両面で確認することです。
この事例でも、結論を先に決めるのではなく、通帳を1行ずつたどり、生活実態と照らし合わせて整理したことが、適正な申告と、その後の将来設計のご相談への自然な流れにつながりました。
この記事に関するQ&A
いいえ。夫婦・親子・兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものには贈与税はかかりません。ただし、必要な都度・通常必要な範囲の金額で、実際に生活費として使われたことが前提です。預金として積み上がったまま残った場合などは、課税対象となり得ます(国税庁 タックスアンサー No.4405)。
いいえ。名義ではなく実態で判断されます。実質的に被相続人の財産とみられる場合は、家族名義の口座でも、相続財産や名義預金として整理されることがあります。
日頃の生活状況、通帳の入出金、資金の出所、口座や印鑑の管理状況、実際の使途など、複数の事情を総合的に判断します。1つの事情だけで決まるわけではありません。
はい。独り身の方や高齢期に身近な支援者が限られる方については、相続の整理が終わったタイミングで、身元保証や生活支援など、将来の備えに関するご相談につながることもあります。
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本記事は一般的な情報の提供であり、個別の事情にそのまま当てはまるものではありません。制度は改正により変動しますので、適用の判断は最新の国税庁資料または専門家へのご相談でご確認ください。
「これは何のお金だったんでしょうね」――通帳を1行ずつめくりながら、ご相談者様と2人で記憶を辿りました。生活費の線引きは、本人の生活そのものを白黒つける作業です。だからこそ、私は結論を先に言わず、順番に事実を並べていきました。相続の話が一段落した後、独り身のこれからについて相談が及んだとき、私は「今からできる備えがありますよ」と、身元保証やサポートの選択肢をご紹介しました。税金の仕事は、その人の人生の設計図を読む仕事でもあります。