- 死亡退職金が相続税の対象になる場合
- 死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の考え方
- 配偶者が受け取る場合と子どもが受け取る場合の見方
- 税金だけでなく、家族の生活費まで含めた分け方の考え方
- 実際に死亡退職金の受け取り方を見直した相談事例
まず結論―死亡退職金は「誰が受け取るか」で税負担と生活設計の両方が変わる
死亡退職金は、相続税の世界では「みなし相続財産」として扱われることがあり、誰が受け取るかによって家族ごとの課税関係や手元に残る金額が変わります。ただし、考えるべきなのは税金だけではありません。残された配偶者の当面の生活費をどう確保するか、子どもたちの意向をどう整理するかまで含めて設計することが重要です。
本件では、配偶者の生活費は預貯金で確保し、死亡退職金は子どもが取得することで、非課税枠を活かしながら全体としてバランスのよい分け方を実現しました。
死亡退職金は相続税の対象になる?
被相続人の死亡によって支給される退職手当金等のうち、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続や遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の対象になります。これが、いわゆる「みなし相続財産」です(国税庁 タックスアンサー No.4117)。
一方で、死亡後3年を経過してから支給が確定した死亡退職金は、相続税ではなく、遺族の一時所得として所得税の問題になることがあります。したがって、まずは「いつ支給が確定したか」を確認することが大切です。
死亡退職金の非課税枠とは
死亡退職金には、相続人が受け取る場合に限り、次の非課税限度額があります。
500万円 × 法定相続人の数
この非課税枠は、死亡保険金の非課税枠とよく似ていますが、使えるのは「相続人が取得した死亡退職金等」に限られます。相続人以外の人が取得した場合は非課税の適用がありません(国税庁 タックスアンサー No.4117)。
誰が受け取るかは、遺産分割だけで決まるとは限らない
死亡退職金は、就業規則や退職金規程で受取人や受給順位が定められている場合、通常はその受取人固有の権利となり、遺産分割の対象外となることがあります。そのため、「相続人同士で自由に分け方を決められる退職金」とは限りません。まずは、勤務先法人の規程や支給通知の内容を確認することが重要です。
そのうえで実務上は、死亡退職金そのものの受け取り方と、預貯金など他の相続財産の分け方を一体で考え、家族全体で最も納得感のある設計を探ることになります。
配偶者の生活費をどう守るか
死亡退職金を子どもが取得した方が税務上有利に見える場面でも、配偶者の生活費が不安定になるなら本末転倒です。特に、残された配偶者が高齢であったり、今後の暮らしに不安があったりする場合は、まず当面の生活資金を確保することが優先されます。
本件では、退職金は子どもが取得する一方で、配偶者の生活費は預貯金から十分に確保する設計を取りました。こうすることで、税金の有利不利だけでなく、ご家族の安心も両立しやすくなります。
実際の相談事例
被相続人が勤務されていた法人では、契約していた保険金が死亡退職金として支給されることになっていました。当初は「退職金は妻と子どもで平等に分けよう」という考えもありましたが、お子様たちには「母に今後の生活のための現金を残したい」というお気持ちがありました。
そこで本件では、まず勤務先法人の支給方法や退職金の取扱いを確認したうえで、配偶者の生活費は預貯金で調整し、死亡退職金は子ども側で取得する方が、全体として合理的であることをご説明しました。結果として、死亡退職金の非課税枠を活かしつつ、妻の当面の生活費も十分に確保できるバランスのよい分け方になりました。
この事例で大切なのは「税金だけで決めない」こと
死亡退職金の相続では、「誰が受け取ると税金が低いか」に意識が向きがちです。しかし、本当に重要なのは、税金と生活設計の両方を見て判断することです。
この事例でも、もし退職金だけを見て決めていたら、配偶者の手元資金が不足し、不安が残る形になったかもしれません。預貯金と退職金を一体で考えたからこそ、家族全体にとって納得できる設計ができました。
この記事に関するQ&A
いいえ。被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは相続税の対象になりますが、3年超で確定したものは相続税ではなく、一時所得として所得税の問題になることがあります(国税庁 タックスアンサー No.4117)。
勤務先の就業規則や退職金規程で受取人が決まっている場合、通常は受取人固有の権利となり、遺産分割の対象外となることがあります。まずは支給規程の確認が必要です。
一概には言えません。非課税枠の活かし方だけでなく、配偶者の生活費、他の相続財産の内容、全体の税額まで見て判断する必要があります。
相続人が取得した死亡退職金等について、500万円×法定相続人の数です。相続人以外が受け取る場合は非課税の適用がありません(国税庁 タックスアンサー No.4117)。
あわせてご覧ください
本記事は一般的な情報の提供であり、個別の事情にそのまま当てはまるものではありません。制度は改正により変動しますので、適用の判断は最新の国税庁資料または専門家へのご相談でご確認ください。
最初に「妻は受け取らず子どもで分ける」と聞いたとき、私はまずお母様の生活が心配になりました。それを言葉にすると、「母に現金を残したい。でも退職金は母が受け取ると税が高くなるって聞いて…」と。そこで私は「お母様の暮らしを先に確保してから、残りをどう分けるか決めましょう」とご提案しました。生活費は預貯金で確保し、退職金は子ども側の非課税枠で。税金の数字だけでなく、家族それぞれの安心のかたちを優先して設計しました。