ご相談時の状況とお悩み
業種: 堅実な経営を続ける地場企業
社長の焦りと「未来の不確定さ」: 60代前半の社長様からのご相談でした。会社は長年の実績があり、業績も非常に好調。しかし、利益が出続けるがゆえに「自社株の評価額」が毎年右肩上がりに跳ね上がり、将来の税金負担が恐ろしいスピードで膨らんでいくことに危機感を抱いていらっしゃいました。
一方で、最大の悩みは「後継体制がまだ未確定」であることでした。長男は入社したばかりで、将来本当に経営者としての器になるか分からない。もしかしたら外部の優秀な人材を呼び込むか、あるいはM&Aでの売却という選択肢もゼロではない……。「もし、体制が決まる前に自分に万が一のことがあったら、残された家族や会社はどうなるのか」という不安を抱えつつも、株価が上がり続けるため「一刻も早く手を打たなければ」と焦っていらっしゃいました。
佐藤智春税理士による解決アプローチ
一般的に「株価が上がっているなら、少しでも早く生前贈与をして、家族に株を分散させて税負担を減らしましょう」とアドバイスする専門家は多いです。しかし私は、社長の「後継者の器が見極められていない」「数十年先の家族の人間関係までは見通せない」というリアルなリスクを重視し、目先の節税だけに走る安易な贈与にブレーキをかけました。
どんな未来になっても会社と家族を守る「3つの防衛策」
まずは後継者が誰になろうとも、最悪M&Aになっても対応できるよう、今すぐできる以下の「3つの基盤」を同時に整備しました。
計画的な株式贈与: 将来の税負担を軽減するため、まずは現時点で影響のない最低限の枠だけで贈与を開始。
相続税の納税資金準備: 万が一、今社長に突発的な事態が起きても、残されたご遺族や会社が資金ショートを起こさないよう、生命保険等を活用して即座にキャッシュ(臨時収入)を確保できる仕組みを構築。
生命保険での退職金積立: 膨らみ続ける株価を将来コントロールするため、そして社長のリタイア資金(または万が一の死亡退職金)を見据え、生命保険を活用した確実な「退職金原資の積立」をスタート。
「経営権のない株なら分散しても安心」という常識の裏にある罠
対策の過程で、周囲から「息子だけでなく、将来のために親族や家族に、経営権のない『無議決権株式』にしてバランスよく分散して持たせたらどうか」という意見が出ました。多くの専門家が推奨するこの手法に対し、私は「それは将来、会社に爆弾を抱え込むようなものです」と慎重な判断を求めました。経営権がなくても、法律上の強力なリスクが残るからです。
「社長、今は関係が良好な身内であっても、将来どんな相手と結婚するか、あるいはどんなトラブルに巻き込まれるかは分かりません。もし将来、その身内が結婚相手と離婚揉めを起こしたり、予期せぬ事情で会社と対立したりした時、その株式を持った人間が、法律に基づいて『今の高い時価総額で、会社は私の株を買い取れ!』と請求してくるリスク(株式買取請求権)があります。業績が良い優良企業ほど、その買い取り資金のせいで会社が傾きかねません。」
熟考の末の「9対1」――あえて渡さないというプロの戦略
この生々しいリスクのシミュレーションを聞いた社長は、ハッと目を覚まされました。「まだ先々のリスクが見えないうちに、安易に株を動かすべきではない。会社の実権を自分が握り続けることこそが、結果的に会社と家族全員を守る防衛策になる」そう確信した社長が下した決断は、【社長が90%、後継者候補へは10%】という、徹底的に安全圏を確保した比率でのスタートでした。将来の主導権は社長が握ったまま、生命保険の活用によって「守り」をガチガチに固めるロードマップへと舵を切ったのです。
結果、そして現在
「早く贈与しなければ損をする」という焦りから解放された社長は、現在、ご自身のペースで後継者の育成を進めながら、安心して本業に邁進されています。
社長様からのコメント:
「佐藤先生に相談して本当に救われました。他の事務所からは『とにかく早く家族に株を分散して贈与しましょう』と数字の損得ばかり言われていたんです。でも佐藤先生だけは、『将来の結婚・離婚トラブルや親族間の関係変化で、何千万円、何億円もの会社資金が買い取り請求で吹き飛ぶリスクがありますよ』と、経営者の僕すら想像もしなかったリアルな法制度のリスクを指摘してくれました。だからこそ、焦って株を配るのをやめ、私が9割の主権を握ったまま、生命保険を使った『万が一の防衛策』と『退職金積立』を固めるという、一番納得のいく決断ができました。税金の計算だけでなく、会社の10年先、20年先のリスクまで見越して守ってくれる、本当に頼りになる先生です。」